タイトル:自転車王国オランダ

 

オランダは、人口ひとりあたりの自転車保有率が世界一の国である。人口約1600万人に対し自転車の数は1700万台といわれている。自転車に適した平坦な土地が多いこともあり、国中に自転車専用道路が設置されている。首都アムステルダムには、中央駅前に世界最大の駐輪場が設置され、電車には自転車専用車両が備え付けられている。無料のレンタサイクルも多い。 自転車通勤を奨励するために、企業への優遇税制制度があり、企業は自転車購入補助金、自転車保険加入費補助等の一部または全額を費用計上できるなど、政府による施策もあつい。

自転車専用道路の様子(1) 自転車専用道路の様子(2) 電車の自転車専用車両
自転車先進国オランダ:えんじ色部分が自転車専用道路 自転車先進国オランダ:自転車専用道路の様子 自転車先進国オランダ:電車の自転車専用車両

このように、今では国の交通政策の中核に自転車がしっかり組み込まれている。自動車の普及による事故の増加、環境の悪化等がそのきっかけになったといわれるが(オランダはその国土の半分以上が海抜0メートル以下であり、地球温暖化による海面上昇など環境意識も高い国でもある)、オランダが自転車王国になった背景にはどのような要因が潜んでいるのだろうか。

オランダの自転車政策

ユトレヒト、いや、オランダという国には、自転車に関する長い歴史がある。

オランダ人は昔から自転車を利用してきたし、今後も利用し続けるであろう。しかし、私達は現状にとどまっているわけにはいかない。何もしなければ様々な開発や発展の中に自転車は埋もれ、次第に利用されなくなってしまうだろう。

オランダは海外から見ると「自転車の国」として成功した事例のひとつである。多くの場合、インフラ面だけに焦点を当て、オランダ人がなぜこれほど自転車を利用し、そこに隠れる要因が何であるのかが議論されることは少ない。

ここでは、自転車の国オランダの成功を導いた3大要因、オランダの空間計画政策、オランダ社会、オランダの交通安全政策について述べることにする。

自転車の国として成功したオランダ

複数の要因の結果であるが、中でも重要なものは、オランダの空間計画、オランダの広範囲に及ぶ社会的交流・統合、そしてオランダの交通安全政策である。

オランダの空間計画の歴史

オランダは空間計画という分野に長い歴史を持つ。空間計画は、長い間法の下で管理されてきたが、オランダは常に水と戦ってきた経緯から、当初は水管理局の下に置かれていた。水管理局は1798年より法の下に管理されており、水管理局法の後に空間計画法が策定された。交通安全については公益事業・水管理を担当する水上輸送局(Rijkswaterstaat)が中核事業の一つとして担当している。

20世紀初頭より、オランダ政府は交通、住宅、産業化、農業分野を厳しく法で管理してきた。1962 年からは、その傘下に空間計画法が規定され、空間計画に関する文書が政府から定期的に発行されるようになった。それはオランダの成長および構造を厳しく規制するもので、各地域レベルではより詳細な内容となっている。

その結果、非構造化されていない産業発展、非構造化ビル、帯状発展(幹線道路沿いに住宅などの建築物が並ぶこと)、開発計画外での投機的建設といったことの機会がオランダでは殆どなくなった。そしてこれによりオランダは、空間計画、空間レイアウトに関し、「過剰管理された」国であるという印象を持つことになった。この印象はその大部分において正しいといえるが、それは自転車を明確に位置付け、調和のとれた公共スペースの機能と形状の結果であることを認識する必要がある。

交通輸送、特に自転車に関するオランダの空間計画の影響

オランダでは、関係者の発言機会が多いこと、交通渋滞の問題を抱えていることから、空間計画が詳細に策定されてきた。

自転車は、オランダの交通・輸送システムに不可欠な要素である。基本構造としては、自動車、公共輸送機関、自転車という3つの交通手段が軸になっており、これらは空間計画でも考慮される要素である。街づくりおよびゾーン分け計画を策定するにあたって、初期段階より交通渋滞を考慮に入れてきた結果である。

昔から、オランダは公共スペースを「小規模」に設計してきた。オランダの都市は殆どどこもヒューマンスケール(人間的な尺度のことで、建築や外部空間などで人間が活動するのにふさわしい空間のスケール)を有している。インフラは、必要最低限以上の大きさであることはない。ユトレヒトのような都市では、2x2車線の道路は広い道路とされ、制限を受けたインフラの障壁効果になっている。しかし、これが自転車利用に関しては良い影響を与えている。自転車利用者にとっては自転車専用道路など専用設備が多く提供されている。特に、住宅地などで他の交通手段と空間を共有しなければならない場所に多い。

オランダ社会、その広範囲な社会的交流・統合

オランダの社会には階級的差別がない。貧富の差は比較的小さく、教育を受けていない人々、労働者、教育を受けた人々の間の差も殆どない。みな同じ住宅地に住み、子供達は同じ学校に通い、余暇の時間にはお互い出会うことも多い。賃金は、何年も前から政府の方針として水平化を実施している。もちろん、若干の違いはあるが大きな格差ではない。

そのベースは何世紀も前に築かれた。オランダは古くから世界有数の海洋貿易国であり、また、勤勉と倹約を美徳とするカルヴァン主義の国である。これにその他要因が相まって、現在の階級的差別のない社会が生まれた。

自転車利用への影響

この広範囲な社会的交流・統合が、オランダの自転車利用の発展に大きな影響を与えた主要な要因である。自転車は19世紀末にオランダに輸入されたが、当時は金持ちのおもちゃだった。

しかし、1920年代から、サイクリングは一気に人々に支持されるようになった。全ての人にとって自転車が交通手段となったのである。例えば、オランダ王室の人々は昔から熱心なサイクリストである。今日でも、オランダ政府の大臣が女王に謁見するために自転車で出かけるということも珍しいことではない。

オランダでは、役人や政策決定者はこぞって自転車を利用している。彼らは職業的に自転車に関わっているだけではなく、実生活での体験者でもあるのだ。

しかし、自転車が生活スタイルの一部となっていることは、主要な問題を引き起こしているともいえる。女王が自転車に乗ってでかけ、首相がアタッシュケースをかごに入れて職場まで自転車通勤していることが日常的な、自転車利用が当たり前となっている国では、自転車に関する取組みや投資が、非常に慎重になる。自動車や公共機関のために莫大な投資をするのは普通のことでも、自転車専用の橋やトンネルに数百万ユーロの投資をするなどということには、驚きを隠せない。

自転車に対する脅威も潜んでいる。移動や交通手段は常に変化していく社会である。自転車利用者はこれまで、自動車利用の激増にもかかわらず、その立場を保持してきた。オランダでは、自転車の立場を維持する政策が求められている。無策では衰退の一途をたどることが明白なのである。

オランダの交通安全政策。社会参加における政府の役割とその歴史

オランダは、長い間、積極的に交通安全政策をとってきたが、このことが自転車利用に主要な影響を与える結果となった。結局、人々は、自転車に乗ることが総じて安全であれば乗るのである。早くも1930年代に、オランダ国民は交通安全を促進する圧力団体を結成している。以来この団体は政府の重要な議論相手になっている。現在では、サイクリスト組合や歩行者組合といった社会的利益団体も結成されているが、こうした団体もオランダの交通安全政策の発展に関与している。

1960年代より、ヘルメット着用義務付け、アルコール禁止規制、安全運転実技テスト、運転標識の改善、シートベルト着用義務付け、サイクリストに対し装備の固定の義務付け、速度制限といった対策で、交通安全が強化された。1970年は3000人の交通事故死亡者を記録していたが、2002年には、交通量が倍以上に膨れ上がったのにもかかわらず、1000人以下となった。

これらは全て、自動車交通の増加に関わらず、自転車の利用が継続された結果なのである。

他の国々では何をどこまで取り入れることができるか

1.空間計画  これは、政府の強力な管理体制が必要である。パブリックスペースの開発において自転車を不可欠な設備にできれば、十分な物理的な空間を確保することができ、他の交通手段との調和を図ることができるだろう。

2.社会的統合  これは、単に模倣できるようなものではない。変化を求めるなら何十年も費やす覚悟が要る。しかし、自転車政策を成功させるためには、重要な条件だと言える。

3.社会参加  交通安全における社会の参加は管理することができる。政府がこれを統括し、刺激する役割を持ち、継続するように管理する。

以上/ユトレヒト市、都市計画・都市開発部(2006年)

News Source
http://www.fietsberaad.nl/index.cfm?lang=en
http://www.nationaler-radverkehrsplan.de/termine/dokumente/2008-exkursion-utrecht/2008-06-11-dutch_bicycle_policy.pdf

 

Go page top