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中国・転換のとき、築けるか「ベターライフ」


編集:2010.04.27
掲載:2010.04.28



高層マンションでの暮らしがあたりまえになっている上海。暮らし方が変わり、新たな課題の生まれています。

豊かさの中の苦悩、築けるか「ベターライフ」

めざましい発展を遂げる上海。 まもなく開催される上海万博のテーマは、「都市のより良い暮らしBetter City, Better Liffeです。 しかし厳しい競争社会の中で、うつ病や自殺が急増。 高齢者の孤独死も相次いでいます。 行政が子供と共に親孝行の契約を結ばせる事態にまでなっています。 社会保障の制度が十分に整わない中、安心して暮らせる社会をどう創るのか。 今、若い世代自らがこれまでなかった福祉のシステムを築こうとしています。

上海・失われる親子のきずな

高齢者が多く住む地域の一角。 ここで奇妙な光景が繰り広げられています。 年老いた父と離れて暮らす息子の間で、ある契約が結ばれていました。

区の担当者が息子にサインさせているのは親孝行契約書です。 この地区では親が一人暮らしになると、その子供は親の面倒を見ることを約束させられます。 毎日必ず電話をかけ、週に一度は会いに行って、掃除や病院への付き添いをするなどが求められます。 上海市では、これまでに5000件以上の契約を結ばせました。

行政が、親子の関係にまで口を出さだる負えなくなったのは、ある社会問題がきっかけでした。 相次ぐ高齢者の孤独死。 中でも人々を驚かせたのが白骨の状態で発見された60代女性のケースです。 息子が居ながら死後2年経つまで誰にも気づかれませんでした。 儒教の伝統から親をなにより大切にしてきた中国の人々には衝撃が広がりました。

・経済発展の結果、こんな冷たい社会になるなんて。
・何があっても切ることのできぬ親への情はどこへいったのか。

なぜ親子の関係がここまで希薄になってしまったのか。 この日、区の担当者は親孝行契約を結びながら親と連絡をとっていなかった女性に注意をしに行きました。 去年契約を結んだ李さん(40歳)。 一人暮らしの母親を気に掛けてはいましたが、余裕がなかったと言います。 不動産管理会社で働く李さん。 月収は夫婦でおやそ12万円。 10年で5倍に増えました。 しかし、暮らしにゆとりはありません。 マンションのローンだけで月収の半分近くが消え、物価の上昇も追ううちをかけています。 最近、仕事で英語の能力も求められるようになり常に勉強しなければなりません。 子供には厳しい競争社会を勝ち抜いて欲しいと勉強も教えています。

ドラマ」。 テレビで高視聴率を獲得したドラマです。 厳しい競争の中でリストラされる主人公。 うつ病になり、最後は自殺に追い込まれる姿が共感を集めました。

急激な経済発展の影で、競争は激しさを増しています。 中国の所得格差は急拡大し、日本やアメリカをも上回るようになりました。 豊かになった人々でさえも、いつ貧困に陥るかわからないというプレッシャーを感じるようになったのです。

若い世代が追い詰められる中、上海では親孝行契約だけでは支えきれないと、新たな取り組みを始めています。 既に息子と親孝行契約を結んでいる男性。 区の担当者は更に同じマンションに住む50代の女性と日常の世話をしてもらう契約を結んでもらいました。 他人と契約を結ぶことで、自らの老後をみてもらえるこの制度。 地域での支えあいの模索も続いています。

親孝行をしていないと注意された李さん。 仕事帰りに時間を作って三週間ぶりに母親に会いに来ました。 子供と一緒に暮らすのが当たり前だった親の世代。 急激な社会の変化を受け入れるのは容易なことではありません。

巨大都市、上海。人々の絆をなんとか保とうとする模索が続いています。

 

豊かさのかげで苦悩する高齢者

地域の問題に詳しく、高齢者、そして働き盛りのカウンセリングを行いながら積極的に心理カウンセラーの育成にも取り組んでいる林イシンさんです。

林イシンさん(心理カウンセラー)

  • 社会の変化があまりにも急激過ぎて人々は追いついていけないと感じています。 こうした中、将来に対する不安や焦りが広がっています。 国民の幸福指数は今確実に下がっているのです。 改革・解放が始まるまで、人々の暮らしは今とはまったく違うものでした。 住宅も医療も定年後の年金も、全て国に面倒をみてもらってました。 当時は親と子供が結婚後も一緒に暮らすのが当たり前でした。 家は狭くて不自由でしたが、家族の絆は強く人々は精神的にも経済的にも支え合って暮らしていました。 ところが豊かになった今。 若い人たちも家を持てるようになり、親から独立して暮らすのが一般的になっています。 経済の発展によって確かに生活水準は上がりましたが、同時に家族の絆は薄れてしまいました。
  • 今のお年寄り達は、以前と比べれば物質的には不自由しなくなり現代的な生活を手に入れました。 しかし心の中では寂しさやむなしさを感じている人たちが多いのです。 人間は、自分が歩んできた人生は間違っていなかったと肯定的に捉えられる時に幸福感を感じます。 しかし大きな変化を経験した今のお年寄りたちは、自分達の過去を否定された気持ちになっています。 なかなか理解してもらえない、という寂しさや、誰にも評価されていないという辛い気持ちを抱えているのです。

 

競争社会、若い世代の葛藤

林イシンさん(心理カウンセラー)

  • かつて、仕事は国が分配するものでした。 大学を卒業すれば誰でもが必ず就職できました。 しかしそれは不満の種でもありました。 当時、私たちは国に決められるのではなく、自分で仕事を選びたいと感じていました。 ですから、仕事が自由に選べるようになり最初はとても幸せでした。 しかしその喜びはあっという間に去っていきました。 特に金融危機以降、事態は深刻です。 たとえ給料の高い仕事に就いていても、5分後には首を切られる可能性もあります。 車や住宅をローンで買ってる人も多いので、失業するかもしれないという心配が大きなプレッシャーになっています。 今、私たちが直面している最大の問題は、将来に対する不安です。 あらゆる世代が未来に対して安心感を持てなくなっているのです。

 

上海・築けるか支えあう社会

高齢化が急速に進む上海。
公的な介護制度の整備が進まない中、住民の手による新たな試みが始まっています。 去年(2009年)オープンしたデイサービスセンター。 上海で初めて民間のNPOが市の委託を受けて運営しています。 行政が運営する施設とは異なり、食事や娯楽の場を提供するだけでなく、健康診断や本格的なリハビリも行っています。

NPO代表の楊ライさん(24歳)。
留学先のイギリスで学んだ先進的な介護サービスを中国でも実現しようと取り組んでいます。 きっかけは祖母の死でした。 体が弱っても一人暮らしをしていましたが、共働きの両親はなかなか介護に行けませんでした。

楊さん

  • 母は仕事が忙しくて祖母が一人部屋で倒れた時、近くにいてあげられなかったので、もっと頻繁に行ってあげればよかったと自分を責めていました。 私は、この時家族以外に誰か介護してくれる人がいたらと、強く感じたのです。

自らも家庭をもったばかりの楊さん。 NPOを設立した背景には若い世代が共通して抱える切実な悩みもあります。 80年代生まれの楊さん達ひとりっ子世代は、将来夫婦二人で4人の親を支えなければならないのです。

楊さん

  • 私たちひとりっ子世代は大きな責任を負っています。 介護を全て家族に任せるのではなく、社会で支えるシステムも必要だと感じたのです。

楊さんの下には今、同じ問題意識を持つ若者たちが次々と集まって来ています。 大学で経営学を専攻した男性や、リハビリを学んでいる大学生。 中には、年収1000万円の仕事を辞めて海外から帰国した医師もいます。

楊さんの取り組みには行政も注目しています。 専門知識を持つ介護ヘルパーを養成し、家庭に派遣しようという楊さんのプロジェクトに行政から資金協力の申し出がありました。

楊さんのNPOでは、高齢者の居る家庭の協力を得て、介護ヘルパーの研修を始めました。 10年後には、3人に1人が高齢者となる上海。 しかし介護ヘルパーになろうという人材そのものが、なかなか集まりません。 人の世話をする仕事が敬遠されがちな中国では、専門知識を学んでまでヘルパーになりたいという人が少ないからです。

なんとか介護ヘルパーを目指す人材を増やしたい。 楊さんは、政府の失業対策などで家政婦をしている人たちを集め話をしました。 楊さんは、人を支える仕事の大切さを強調し、介護ヘルパーへの待遇も上がっていくと訴えました。 今年中に60人の介護ヘルパーの育成を目指す楊さんですが、実現は容易ではありません。

楊さん

  • これまでも様々な壁にぶつかりましたし、今後もそれは続くでしょう。 でも、政府だけでは手の届かない部分を私たちが埋めていくことで、本物の福祉社会を実現していきたいんです。

 

中国・築けるか支えあう社会

林イシンさん(心理カウンセラー)

  • こうした動きは益々必要になると思います。 しかし自発的なボランティアには限界があります。 私たち心理カウンセラーも老人ホームや高齢者の家庭を訪問する活動を行ってますが、善意だけで続けるのは簡単ではありません。 やはり、お年寄りのケアを職業とする人材が大量に必要です。 政府は民間に頼るのではなく、制度や資金面の整備にもっと積極的に取り組むべきです。
  • 私たちが一番心配しているのは、ひとりっ子世代の負担です。 寿命が延びる中、若い夫婦は4人の親だけでなく、その上の世代、合わせて12人の面倒を見なくてはなりません。 その上に、子育てもあるわけですから、絶対に無理です。 一刻も早く、法的な介護のシステムを整備していかなければ大変なことになります。
  • まず第一に、国がお年寄りを経済的に保障する制度を創らなければなりません。 お年寄りにお金の心配をさせてはいけません。 年金の支給額は少しずつ上がってはいますが、お年寄りが子供に頼ることなく自立した尊厳のある暮らしを送れるレベルにはまだ達していません。
  • 私たちは長い間社会主義体制の下、個人よりも国を優先して生きていました。 その代わり、生活は保障されていました。 貧乏でしたが皆同じでした。 今は、自由と豊かさを手に入れましたが、国のために自分を犠牲にする必要がなくなりました。 一方で自己責任の社会となりました。 一人ひとりのことを考えると、今の方が良くなったはずです。 なのに人々は大きな不安を抱えている。 果たしてこのままでいいのだろうか、と考え始めている。 それが大きな転換点なんだと思います。

この30年間の社会の変化がいかに大きく、とりわけ高齢者にとって過酷なものであったのか。 改めて感じさせられました。 本物の福祉社会を創りたいという若い世代の言葉。 経済最優先に代わる新たな国の目標を中国は見出すことができるのでしょうか。

 

Posted 28 Apr. 2010
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